センター便り 2017年11月 |
台風一過の晴天に、「木枯らし1号」が東京都心で吹いたと発表されました。台風は熱帯低気圧ですから、夏のもの、「木枯らし1号」は等圧線が縦に並んだ西高東低の冬型気候の結果ですので、冬のもの。今年は天候が不順で、10月も雨が続き、秋晴れの日がなかったように思いますが、台風の次の日に木枯らし一号が吹いたことから、そうか、今年は秋がなかったのだと思い、納得したような気になりました。 気候だけではありません。何事につけても、急激な環境の変化が好ましくない結果につながることがあります。我々の体も同じ。いろんな環境が劇的に変化すると、体もつらいし、精神的にも参ってしまいます。病気の治療を例にとって考えてみたいと思います。 病気の治療の始め方には、2つあるように思います。ひとつは少しずつ病気を改善していく「最初はゆっくり」の方法、もう一つは、できるだけ急速に病気を押さえつけてしまう「最初からガツン」の方法です。 前者の代表例は高血圧の治療でしょう。緊急性が高い場合を除き、血圧はゆっくり下げたほうが良いと思います。高血圧が長く続くと、体は高い血圧に慣れてしまっていますので、降圧剤で急に血圧を下げると体がだるいとか、朝がつらいとか、気力がないとかの症状が出てきます。したがって、降圧剤も少しづつ増量する場合が多いのです。痛風もそうです。高尿酸血症が長年続き、体内に尿酸がいっぱいたまって、関節炎を起こしている患者さんの尿酸値を急に下げると、関節にたまっていた尿酸塩結晶が溶け出して、痛風発作を起こすことがあるのです。ですから、痛風患者さんに投薬を開始するときは、尿酸値がゆっくり下がるように薬剤を少量から開始します。このような病気は「最初はゆっくり」方式が良いのです。 しかし、病気によっては「最初からガツン」と治療しなければならない場合もあります。発病早期で、非常に炎症の強い関節リウマチ患者さんなどはその好例です。「最初は控えめに」治療をしていると、病気自体が生意気にも増長して、どんどん強くなっていき、手に負えなくなることがあるのです。ところが、「最初からガツン」方式で、最初から十分な薬剤を使って病気をたたくと、不思議なことに病気自体がおとなしくなってしまう例がたくさんあります。関節リウマチ以外にも、いろんな病気で「最初からガツン」が良いことが示されています。 「最初はゆっくり」という治療と「最初からガツン」という治療。どちらが適切かは、病気の種類によっても、その患者さんの状態によっても異なります。お薬の副作用が心配だから最初は控えめに治療してほしい、という患者さんも多いと思いますが、長い目で考えると、それが正解ではない場合もよくあります。治療を始めるにあたっては、主治医の先生方とよくご相談いただくようにお願いいたします。 考えてみれば、我々の身の回りにも、「最初はゆっくり」付き合っていったほうが良い人と、「最初からガツン」と言わないとうまくいかない人がいますよね。人との付き合いも、病気との付き合いも、案外似ているのかもしれません。 本来は、11月は晩秋で、冬に向かう季節のはずですが、今年のこの天候を考えると、雪便りも間近でしょう。季節の動きが早い今年は、特に体調管理にはご留意ください。 2017年11月1日 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿 |