センター便り 2016年9月

2016.9sentahdayori

真夏の夜の夢のようなリオ五輪でした。開催準備が間に合うのかと危ぶまれていたブラジルでしたが、何とか間に合わせてきただけでなく、テレビを通してみる限りでは、とてもスムーズな運営をしていたように思います。「どうしてそんなに心配するの?いろいろあるけど、やる時はやるんだよ」とでもいうような、楽天的な、ラテン独特の発想。世界は広い。どんな国からもどんな人々からも学ぶことは山ほどあります。4年後の東京五輪も、ブラジルからの学びも取り入れながら、上手く準備が進んでほしいものです。

今月は、「免疫」について少し説明しようと思います。というのは、関節リウマチも膠原病も免疫が原因となって起こる病気だからです。免疫とは「疫を免れる」ということであり、体を外敵から守るシステムです。我々の体の周りには、目に見えない細菌やウイルスがいっぱいいて、隙あれば我々の体の中に入り、増殖しようとしています。免疫はそのような細菌やウイルスが体に入ってきた時に撃退するシステムです。免疫は、好中球、単球、リンパ球や抗体と呼ばれるたんぱく質などの武器と、それらを使いこなす信号であるサイトカイン、ケモカインなどのタンパク質が複雑に構成されて成り立っています。つまり免疫は自分の身を守る自衛隊みたいな組織で、たくさんの部隊が体の中で「専守防衛」をしてくれています。免疫システムは、「自分の体(自己)は攻撃しないが、自分の体の成分でないもの(非自己)は攻撃する」という特徴を持っています。自分の体の中にある健康な細胞は攻撃しませんが、外敵である病原体が入ってくれば攻撃しますし、ウイルスが感染してしまった細胞も除去してくれます。とても優秀なシステムです。

しかし、免疫システムも時にはシステムエラーが起こり、それは病気につながります。本来であれば身を守ってくれる免疫のシステムが、誤って自分の体を攻撃してしまうと、いろんな病気が起こります。攻撃目標が関節だと関節リウマチになり、筋肉だと多発筋炎になり、腎臓や皮膚や血管だと全身性エリテマトーデスになります。当センターが扱うリウマチ性疾患の多くは、このように免疫が目標を見誤って自分の体を攻撃してしまう「自己免疫疾患」なのです。

治療方法として、そのシステムエラーを修復できれば一番いいのですが、免疫システムは非常に複雑で、パソコン修理とは違って人為的に修復ができません。また人生をリセットするわけにもいきません。したがって現時点では、免疫システムの力を弱めることにより被害を最小限に食い止める免疫抑制療法が主流です。抗リウマチ薬も生物学的製剤もステロイド剤もこの免疫抑制療法の一つです。しかし、医学は着実に進歩しており、将来的にはこのシステムエラーを修復する方法がきっと開発できるはずです。

歴史に学べば、技術は必ず進歩し、不可能を可能にしてきたことがわかります。自己免疫疾患のシステムエラーを修復し、病気を治癒させる、そして多くの患者さんを病苦から救う、それが我々の夢です。この夢が、リオ五輪のような真夏の夜の夢ではない、この世の正夢になりますように、その日が一日も早く訪れますように。

2016年9月1日

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿