センター便り 2016年8月 |
梅雨が明けたら、いきなりの猛暑です。 通勤途中に公園を通るのですが、降りかかる蝉の鳴き声は、まさに蝉時雨(せみしぐれ)。特にクマゼミの声は豪雨のように頭上に落ちてきます。クマゼミ時雨の中にミンミンゼミの声が混じるようになり、夕方にヒグラシの鳴き声を聞くようになると晩夏の訪れ。地方(田舎?)で生まれた私は、セミの声に季節の移ろいを感じながら育ってきました。ヒグラシの声を聴くと、遠くて懐かしい夏の日を思い出します。 夏の病気の話題をひとつ。夏に多い病気としてメディアなどが良く取り上げる病気に痛風があります。痛風は、痛風発作とも言われるように、発作的に急に痛みが発症し、ひどい炎症を起こします。そして治療しないと数日間は歩けないほど痛みますが、発作が治まると次の発作までは全く無症状という、ON-OFFがとてもはっきりした病気です。この痛風は、尿酸と言う物質が関節の中に蓄積し、結晶化して痛みや腫れを引き起こします。つまり血液中の尿酸濃度(血清尿酸値)が高くなる高尿酸血症が痛風の原因です。したがって、尿酸値が高くなることが痛風の原因、尿酸値が高くなるのはいつかと言えば夏。だから夏は痛風にご注意と言う三段論法になるわけです。 実際に夏は尿酸値を上げる要因が揃っています。まずは脱水。尿酸は体内で作られて主に尿から体外に排出されます。汗ではあまり出ません。したがって、汗をかいて尿量が減ると、体内に尿酸が蓄積しやすくなって尿酸値が上がります。汗をかいたらその分だけ水分を補給すること、十分に尿が出るまで水分を取ることに気を付けてください。痛風患者さんや尿酸値の高い人は尿路結石の合併も多いです。結石対策の意味からも十分な水分摂取が勧められます。 次にビールです。暑い日にビールでのどを潤すのは本当に快感ですが、ビールにはプリン体がたくさん含まれており、このプリン体は体内で尿酸に変わります。プリン体を取りすぎると尿酸値が上がる、痛風に良くないと言われるのはそのためです。実際に、ビールは他のアルコール飲料と比較してプリン体が多く含まれています。たからビールは痛風に良くないと言われるのですが、実はビールに含まれるアルコール自体も尿酸値を上げるのです。したがってビールはプリン体+アルコールで尿酸を上げます。では他のアルコール飲料はどうか?例えば焼酎はプリン体をほとんど含みません。でもお酒ですからアルコールはしっかり含まれています。したがって焼酎を飲んでも尿酸値は上がります。居酒屋談義で、焼酎を飲んでいる人がビールを飲んでいる人に「ビールは痛風に良くないから焼酎にした方が良いよ」というのは「五十歩逃げた人が百歩逃げた人を笑う」みたいなもので、程度の差こそあれ、本質的な違いはありません。お酒はやはり控えめが良いでしょう。 要するに、夏の痛風対策のポイントは水分摂取です。でも、「脱水になると尿酸値があがる、だから私はビールで水分を補っています」という非論理的な理屈だけはやめていただきたいと思います。またアルコールだけでなく、高カロリーや果糖も尿酸値を上げますので、要は水やお茶で水分を補うことが大切と考えてください。これは熱中症対策でもあります。 厳しい夏ではありますが、四季に恵まれた日本では、夏が暑いから秋の涼風の快さを待つ楽しみもあります。「冬来たりなば春遠からじ」と言いますが、今は「夏来たりなば、秋遠からじ」と思って、暑い日を過ごしたいと思います。皆様もどうぞご自愛のほど。 2016年8月1日 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿 |