センター便り 2016年1月

2016.1sentahdayori新年明けましておめでとうございます。

皆様はどんなお正月を過ごされましたでしょうか?

お正月には、初詣、おせち料理、お屠蘇、年賀状などなど、いろんな伝統行事があります。我々はそれらを家族と共に楽しむことで、独自の伝統を次の世代に繋いでいます。毎年変わりばえのしない正月風景かもしれませんが、あまりにも変化の激しい現代において、ずっと変わらない風習があること、そしてそれらが世代を超えて若い人々にも受け入れられていることは、私たちに大きな安心を与えてくれます。日本には、すべての国民が誇りに思える佳き文化があることに感謝して、今年の1年を始めたいと思います。

文化や伝統を継承することはとても大切なことですが、そのために教育の果たす役割は、とても大きいと思います。私は多くの患者さんの診療に当たっており、またいろいろな研究も行っていますが、学校法人東京女子医科大学の教授ですので、教育者としての使命もあります。

一人前の医師を育てるのは、とっても時間がかかります。医学部で6年間勉強し、卒業して医師国家試験を通って医師免許を取得してからも2年間の臨床研修が必須で、その後も専門医になるための教育が続きます。昨今の医学教育はとても大変です。まず学ぶべき情報量が以前より格段に増えています。医学の進歩の結果でもあるのですが、医師国家試験を合格するために必要な知識の量は、私が医師になった35年前と比べると何倍にもなっていると思います。

さらに医師の人間性に対する社会の要求も大きくなっています。生命を直接に左右できる資格を与えられている医師には、当然ながら高い倫理観が要求されます。倫理感の醸成には、臨床の現場で自らが重要な決定を迫られる場面を経験して初めて体得できるものもあります。適切な指導者がいる環境で、そのような経験を早い時期に体験させることは、医学教育の中でもとても大切であり、最近では全国の医学部で、スチューデント・ドクター(Student doctor)制度が始まっています。現在では、能力や適性を評価する共用試験を合格した医学部の5年生は、スチューデント・ドクターとして指導医と共に患者さんの診療に当たっています。実際の診療行為を行う場合には患者さんの同意が必要になるのですが、実際の診療に関与することがいちばんの教育の場であり、東京女子医科大学でも入院病棟を中心として行われています。大学病院は、診療の場でもあり、研究の場でもありますが、教育の場でもあります。このことを患者の皆様方にもご理解いただきたく、医学教育について少し書かせていただきました。

元日の朝、私も初詣に出かけ、敬虔な気分で新年を迎えて心を新たにしました。「心を新たにする」ことは、流行りの表現にすると「心をリセットする」ことでしょうか。よく考えれば、この世の中でリセットできることはほとんどありません。時間は前向きにしか進まないので、行った行為を帳消しにすることはできず、他人の感情や記憶をリセットすることもできません。唯一リセットできるのは、自分の心の中だと思います。人に対する悪い感情や、くよくよ考えても結果が出ないことなどをリセットし、心を新たにできます。私も、心を新たにし、清々しい気持ちで今年1年も頑張りたいと思います。

まだまだ寒くなります。これからインフルエンザも流行る時期を迎えます。くれぐれもご自愛のほど。

2016年1月5日

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿