センター便り 2015年11月

2015.11sentahdayori10月末からずいぶん気温が下がり、コートやマフラーの出番になりました。夏の間に太陽からの熱をたっぷりため込んだ大地も、大陸からの冷気により少しずつ冷えてきました。東京でも広葉樹も色づき始め、まさに秋本番です。

食欲の秋、体育の秋、読書の秋、芸術の秋、収穫の秋、行楽の秋、・・・・秋にはいろんな別名があります。そういえば、**の春とか、**の夏、**の冬とはあまり言いませんね。不思議なことです。食べるのも、運動も、読書も、芸術も、別に秋でなくても良いはずですが、なぜでしょうか? 秋は四季の中で一番過ごしやすい季節。何をするにも良い季節なのでしょう。皆が秋は大好き。だから秋には素敵な別名がつくのかな、と思っています。

先日、ドイツで痛風治療の在り方を決める国際会議があり、参加してきました。

実は、海外の多くの国々では重症の痛風がとても問題になっています。欧米だけでなく、東南アジアからオセアニア各国には、痛風患者さんがとても多く、また重症になって困っておられます。痛風の発症率には民族差もありますが、重症化の原因は、診断の遅れ、治療開始の遅れ、そして不十分な治療です。特に欧米では、早期から尿酸値を下げる治療が行われないこと、そして薬物治療がなかなか継続しないことが痛風の重症化につながっていると考えられています。その会議で私は日本の痛風治療の現状について話をし、日本の痛風治療が世界で最も進んでいることを海外の専門家に認識していただきました。プリン体ゼロのビールがあること、それが日本では一般的に飲まれていること、などは海外の専門家にはとてもショッキングだったようです。

当センターはその名の通り膠原病や関節リウマチや痛風の患者さんを専門的に診療しておりますが、1982年に設立された時には痛風患者さんがほとんどを占めていました。そしてそれからの30年間、御巫清允先生、鎌谷直之先生らのご指導の下、当センターが中心になって日本の痛風診療を向上させてきました。痛風の原因となる遺伝子や尿酸値を上げる生活習慣などについての研究を行い、また痛風に対する薬剤の適切な投与法を確立し、治療ガイドラインも作りました。世界中で痛風の標準治療薬になりつつあるフェブキソスタット(商品名フェブリク)も当センターが中心となって開発しました。低プリンビールやプリン体を吸収する乳酸菌を含むヨーグルトの開発にも関与してきました。少し大げさな表現かもしれませんが、当センターが日本の痛風診療を発展させてきたと言っても過言ではないと自負しております。

またこのような活動を通して、痛風治療の重要性と尿酸値を知ることの大切さを強調してきました。わが国ではほとんどの人間ドックや定期検査で尿酸値を調べますし、特に成人男性の多くはご自身の血清尿酸値をご存知です。自分の尿酸値やお酒に含まれるプリン体が酒場の話題になる、そんな国は世界中どこにもありません。さらに日本の痛風患者さんはとても真面目に受診されます。私の外来にも、30年間きちんと受診されている患者さんがたくさんおられます。たぶんその結果だと思いますが、日本人の痛風患者さんには重症例が少ないのです。

前述の国際会議はHerneというドイツの小さな町で開かれました。既に葉っぱが色づき、皆がコートを着込んで、街は晩秋の趣でした。これから東京も冬に向けて季節が動きます。季節の変わり目にはくれぐれも健康管理にご注意ください。

2015年11月1日

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿