センター便り 2015年10月

2015.10sentahdayoriキンモクセイの甘い香りが漂い、秋の到来を実感する時期になりました。皆さんは、あるにおいを嗅いだ瞬間に昔の記憶が蘇る経験をお持ちではないでしょうか。実は脳の中で嗅覚をつかさどる神経は、記憶をつかさどる海馬という脳の部分と密接につながっています。それで特定のにおいを嗅ぐと特定の記憶が蘇るのだそうです。私はキンモクセイのにおいを嗅ぐたびに楽しかった少年時代を思い出します。私が生まれ育った実家の庭に大きなキンモクセイの木があり、毎年この時期には秋の涼風と共に甘い香りを楽しんでいました。ちょうど秋には運動会や遠足など楽しい行事がありました。いろんな思い出が私の海馬に詰まっています。私はキンモクセイのにおいを感じると、何か楽しくて、とても懐かしい記憶が呼び覚まされるのを感じます。思わず遠き佳き日に帰りたくなります。

関節リウマチは、つらい関節の痛みが続くうちに関節が変形し、最終的には寝たきりになることもある大変な病気です。

しかし、医学の進歩は目覚ましく、過去20年の間に新しい薬剤や治療法が開発されて、かなりの患者さんの病状を軽快に導くことができるようになりました。なかでも我々が「寛解」と呼ぶ、「完治したわけではないけれども、病気が進行しないレベルまでリウマチを治療できた」患者さんがずいぶん増えました。東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターでは、患者の皆様のご協力を得てIORRAと言う患者調査を2000年から行っておりますが、開始した2000年では重症(DAS28>5.1)の患者さんが20%、寛解(DAS28

しかしながら、関節リウマチは簡単に完治する病気ではありません。寛解=完治ではないのです。寛解になった患者さんも、その状態を維持し続けなければ、関節炎が再燃し、関節変形が進んでしまいます。したがって寛解になったら、その良い状態を続けることが次の目標になります。寛解に向けた治療(Toward Remission)から寛解の先の医療(Beyond Remission)を考える時代を迎えています。

残念ながら現時点では、治療はずっと必要だと考えざるを得ませんが、寛解に入った患者さんは、良い状態が続けば薬剤を減らすことが可能な場合があります。ステロイドを減らす、MTXの服用量を減らす、生物学的製剤をお使いの患者さんは投与間隔を空ける、などの手段も考えられます。寛解が維持できていることが条件ですが、薬剤の服用量を減らすことができれば、副作用の確率も減りますし、医療費も減らすことができます。なによりも患者さんの心の負担が減ることにつながると思います。もちろん患者さんが自己判断で薬を減らすのは良くありません。勝手に止めてしまうのは絶対にダメです。薬を減らせる状態かどうか、どの薬を減らすのか、何に気をつける必要があるかなど、主治医の先生とよくご相談ください。

このように関節リウマチの治療の進歩は、薬剤や治療法の開発によってもたらされた面が大きいのですが、すべてが薬で解決するわけではありません。もっと関節リウマチの事を知りたい、薬以外にもできることがあるのではないかと考える患者さんも多いと思います。そのような方々のために、私が監修した本が先月に出版されました。

「関節リウマチのことがよくわかる本」講談社、税別1300円

全国の書店やアマゾンなどの通販でも入手できます。お役に立てれば幸いです。

キンモクセイの香りが満ちる季節は安定した気候が続くことが多いのですが、昨今の気象状況では何が起こるかわかりません。くれぐれも油断されませんよう、ご自身の健康管理をお願いいたします。

2015年10月1日

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿