センター便り 2015年5月

2015.5sentahdayori

風薫る五月。一年中で最も清々しい季節になりました。鮮やかな新緑に目が洗われ、爽やかな風が冬服を一掃してくれます。ちょうど5月1日からはクールビズ。実際に体も軽くなりました。心身が軽くなると、心が優しくなれる気がします。今は「より速く、より遠く、より合理的に」から「よりゆっくり、より近くへ、より寛容に」が求められる(水野和夫さんの引用)と言われています。薫風に吹かれながら、この意味をゆっくり考えてみたいと思います。

今月は、プリン体とヨーグルトについて書いてみます。

4月7日に、プリン体と戦うヨーグルト明治PA-3という黄色い容器のヨーグルトが発売されました。ずいぶん宣伝されていますので、ご存知の方も多いと思います。プリン体といえば、尿酸の原材料であり、痛風患者さんを悩ませている物質です。プリン体はすべての生物の細胞の中にあり、生命の維持のために使われています。つまり、プリン体は体にとっては必須の物質なのですが、体の中で最終的に尿酸になりますので、食べ物からプリン体を過剰に摂取すると尿酸値が上昇します。それが長く続くと関節に尿酸が貯まって、痛風と呼ばれる関節炎を起こします。

当センターは1982年の発足当初から多くの痛風患者さんを診療してきましたので、プリン体に関しても多くの研究を続けてきました。痛風患者さんや尿酸値の高い人にはプリン体のとりすぎが良くないと言われます。したがって、あれはダメ、これはダメ式の食事療法が蔓延していますが、それは患者さんにとっては幸せなことではありません。だって、プリン体は、「旨み」の成分でもあるので、プリン体をたくさん含む食品は美味しいのです。

我々は、ヨーグルトに含まれる乳酸菌に注目しました。乳酸菌は本当にいろんな種類があり、いろんな酵素活性を持った乳酸菌がいます。そして、数年前に明治がプリン体から尿酸ができにくい酵素活性を持った菌種を発見しました。その乳酸菌はプリン体を高率に吸収することもわかりました。動物実験で血清尿酸値低下も証明されました。さらに一般のボランティアの方々や、当センターに通院中の痛風患者さんにもご協力をお願いして、この乳酸菌を含むヨーグルトが尿酸値を下げるかどうかを調べました。その結果は、「治療中の痛風患者さんの尿酸値はほとんど下げないが、尿酸値が正常より少し高めで、プリン体摂取量が多くない人では、対照群と比較して有意に血清尿酸値が低くなる」という結果でした。「プリン体と戦うヨーグルト」は特定保健食品ではありませんので、「痛風患者さんはやはり薬が必要、それなりに節制している痛風予備軍の人には少しは良いでしょう」というのが今の結論です。

尿酸は、体の中で使われたエネルギーの燃えカスでもあります。激しくエネルギーを使うと尿酸値が上がります。問題は食事中のプリン体だけではありません。ある種の行動パターンも尿酸値と関係します。冒頭に書きました「より速く、より遠く、より合理的に」から「よりゆっくり、より近くへ、より寛容に」は、痛風患者さんにとっての金言ではないかとも思います。これについては、機会があればまた書きます。

新緑と薫風を楽しみながら、有意義なゴールデンウイークをお過ごしください。

2015年5月1日 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター所長 山中 寿