センター便り 2014年12月

2014.12sentahdayori

 

銀杏の葉が綺麗に色づきました。真っ青な青空を背景に黄色が映えます。特に、朝日に照らされた銀杏の葉は力強い金色に輝やいて、朝の眠さを吹き飛ばしてくれます。一般に「紅葉」と書きますが、きれいな銀杏並木が多い東京では「黄葉」でしょう。冬を前にした落葉樹の葉が、落ちる前に綺麗に色づく様子は、日本人の美学にも通じます。英語で書くと’Coloring’と素っ気ないですが、「紅葉」や「黄葉」などと表現できる日本語は、本当に情感豊かな言語だと思います。

今月は、「バイオシミラー」について述べます。つい3日前、11月28日にはじめてのバイオシミラー製剤が発売され、関節リウマチの患者さんに使えるようになったからです。

「バイオシミラー」とは、生物学的製剤の後発医薬品の総称で、生物学製剤のジェネリック医薬品のようなものです。のようなものとわざわざ書いたのには理由があり、ジェネリック医薬品とは違う点があります。どちらも開発特許が切れた薬剤の後発医薬品で、先発薬より薬価が安く(約7割)設定されています。ジェネリック医薬品は、分子量の小さい化学薬品で、先発品と全く同じ化学構造をしていますから、効き目も同じだろうと仮定して「同じ成分、同じ効き目」と言っています。しかし、臨床研究(治験)をしていませんので、同じ効き目であることは科学的に証明されていません。だからジェネリック医薬品は「同じ成分、たぶん同じ効き目の安価な医薬品」と表現するのが正確です。それに対して、バイオシミラーは、分子量の大きな生物学的製剤の後発医薬品であり、化学構造は同一ではないがほぼ同じです。そして、有効性、安全性に対して臨床試験(治験)を行っていますから、効き目が同じであることは、科学的に証明されています。この臨床研究には私も調整医師として参加し、有効性と安全性を確認しました。したがって、バイオシミラーは「ほとんど同じ成分、同じ効き目の安価な生物学的製剤」と言えます。

生物学的製剤は、関節リウマチ治療の切り札的存在で、2003年にレミケードが発売されて以来、次々と発売されて、関節リウマチの患者さんの治療に大いに役立ってきました。症状も改善するし、骨破壊の進行も抑える。ただし高価であることが最大の問題でした。この度、発売されたバイオシミラーの薬価はレミケードの約67%になりましたので、薬剤費の負担はかなり減ります。薬剤の投与量にもよりますが、多くの場合、患者さんの自己負担額は減ります。当然のことながら、自己負担額以外は税金が使われる国民医療費が負担しているのですから、薬剤費が安くなれば、国民医療費の軽減につながります。

今回は、レミケードのバイオシミラーであるインフリキシマブBSが発売になりました。当センターでは、11月28日の発売当日から採用し、すぐに使える体制を整えました。有効性も安全性も確認されていますので、一般的に投与に問題はないのですが、「やはり今までどおりが良い」と考える患者さんもおられると思います。そこで、当センターでは、レミケードをお使いの患者さんと医師が相談して、今まで通りレミケードを使うか、インフリキシマブBS(バイオシミラー)を使うかを判断することにします。担当医師に是非ともご相談ください。

バイオシミラーは厳密には新薬ではありません。しかし新しい特徴を持った薬剤が次々と開発されていることは朗報です。関節リウマチに対する治療法は20年前では想像もできなかったほど良くなっていますが、5年後、10年後にはもっと素晴らしい薬剤も出てくるでしょう。関節リウマチの完治も不可能ではないかもしれません。ご期待ください。

12月に入り、師走のあわただしい季節になりました。これから気温が下がり、空気が乾燥してきます。今年はインフルエンザの流行も早いとの情報も入っています。皆様におかれましては、より一層、体調管理にご配慮いただきますようお願いいたします。

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター所長 山中 寿