センター便り 2014年7月

梅雨の真っただ中です。雨はすべての生物を育む源ですので、雨が降らないと困ります。また梅雨=雨季なのですから、この時期にまとまった量の雨が降るのは仕方がありません。しかし、バケツをひっくり返したようなどしゃ降りや、激しい雷に加えて大粒の雹(ひょう)まで降ってくるようでは、雨雲に対して恐怖や憎悪すら覚えます。ただし、これだけ雨が降れば今年の夏は水不足を心配しなくても良いでしょう。悪いと思うことにも、きっと何か良いことが伴っている。世の中はすべて二面的。そう思うと、雨雲に対しても少しは表情が緩む気がします。

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターでは、関節リウマチの患者さんに対してIORRAという調査を2000年から年に2回行っております。毎回30ページほどの調査用紙を外来でお配りして、患者さんにご記入いただき、郵送で回収しております。おかげさまでほとんどの患者さんのご協力を得ることができ、郵送の回収率は毎回98%を超えています。この調査によりいろんなことが分かってきましたが、なかでも関節リウマチの患者さんの病状が年々改善していることが明確に示されたことは、とても重要なことでした。調査を開始した2000年の時点では、重症の患者さんが20%、寛解と呼ばれるほぼ無症状になった患者さんはわずか8%でした。それが2013年の調査では重症の患者さんがわずか3%に減り、寛解状態の患者さんが50%を超えました。過去13年間の薬物治療の進歩が大きく貢献していますが、実際にIORRA調査から得られた多くの情報を患者さんたちの治療に役立ててきたことが、このような改善につながったと思っています。通院中の患者さんには、今後とも引き続きIORRA調査にご協力をお願い申し上げます。

以前から、IORRAに参加していただいた患者さんには、データの一部をレポートとしてお渡ししていますが、今年の4,5月に実施した調査のレポートから、寛解を達成した患者さんには「寛解」というスタンプを印刷することにしました。「寛解」については以前もこの欄で述べました。治癒ではないけれど、病気がほぼ完全にコントロールできていて、この状態が続けば進行しない、関節も変形しない、という状態です。寛解は現在のリウマチ治療の目標でもありますので、個々の患者さんに寛解であるということを伝えるために、レポートに「寛解」マークの印刷を始めたのですが、実際に患者さんに説明して手渡しし始めると、多くの患者さんから意外なほど喜ばれることに少なからず驚きました。今日もご主人と二人で涙ぐまれた患者さんもおられ、反響の大きさは正直言って予想外でした。

しかし、ちょっと考えてみると理解できました。「患者さんには何とか良くなっていただこうと我々医師も努力しているつもりだけれど、患者さんが良くなりたいという気持ちにはとても及ばない。たぶん良くなりたいという気持ちが強い患者さんほど「寛解」のスタンプを見るとうれしいのだろう。」こんな当然のことにどうして気付かなかったのかと反省しました。もっと早く「寛解」スタンプを入れるべきであったと残念に思いました。

関節リウマチは超慢性疾患です。病気と付き合う辛い月日のなかで、レポートに「寛解」というスタンプが押されているのを見ると、梅雨空が晴れるような気持になっていただけるのだと思います。現時点では寛解に至っていない患者さんも、次回の調査時には「寛解」スタンプが印刷されるまでに軽快していただけると良いですね。7月後半になれば梅雨空も晴れ、暑い夏がやってきます。病魔もいつかは退散し、患者さんやご家族の顔が晴ればれとする日が来ますように、神頼みではなく、我々も力を尽くしたいと思っています。

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿