センター便り 2014年6月

いま、膠原病リウマチ痛風センター前の植え込みのツツジがきれいに咲いています。先月は鮮烈なサツキの印象を紹介しましたが、ツツジは花も小ぶり、色も深紅色、葉っぱもサツキより深い緑色で落ち着いた印象を与えます。花が咲くまでは何の植え込みなのか気が付かないような緑の葉っぱの中に、きれいな深紅色の花がずらりと並ぶととてもきれいで、ちょっとした驚きです。控えめですが、しっかり自己主張していますよ、そんな声が聞こえてきそうです。

今月はリウマチ性疾患の男女差(性差)についてご紹介します。

痛風は圧倒的に男性に多い疾患で、95%以上が男性です。逆に、関節リウマチは女性が80%で、膠原病も女性に多い。特に混合性結合組織病やシェーグレン症候群は90%以上が女性です。実は、いろんな病気のなかで、リウマチ性疾患ほど男女差が明らかなものはないのです。もちろん婦人科の病気は女性だけですし、前立腺の病気は男性だけですが、高血圧や糖尿病も少し男性に多いものの、極端な男女差はありません。なぜでしょうか?

多くの病気は、体質と呼ばれる遺伝的素因と生活習慣などの環境要因が組み合わさって発症します。痛風は生活習慣病ですので、環境要因に左右されることが多く、男性のほうが尿酸値が上がりやすい生活習慣をしている可能性はあります。しかし、関節リウマチや膠原病は生活習慣病ではないので、環境要因で男女差が生じるとは考えられません。

皆様のご想像通り、これらの男女差は性ホルモン、特に女性ホルモンが影響していると考えられています。ただし代表的な女性ホルモンであるエストロジェンは乳腺や女性器に作用するだけでなく、生命活動にとても重要な作用をしているホルモンです。したがってエストロジェンは女性の体だけにあるのではなく、男性の体内にもたくさんあって様々な臓器で作用しています。ただし、女性のほうが女性器や乳腺がある分だけエストロジェンが多いのです。

たぶんエストロジェンが多いことが、リウマチ性疾患の男女差につながっているのだと考えられます。痛風に関しては、エストロジェンが多いと、腎臓で尿酸の排泄にかかわるたんぱく質が増えて尿酸の排泄が増える、したがって女性は体内に尿酸が貯まりにくくて痛風になりにくいことがわかっています。膠原病や関節リウマチでは、エストロジェンがこれらの病気と関連する遺伝子を活性化したり、免疫をつかさどる細胞の機能を制御したりするのだと思われます。ただし、これらは十分に研究が進んでいません。

人類としては同質でも、生物学的には異質な面を持つ男性と女性。病気の男女差を研究することから病気の治療につながる糸口が見えてくるように思いますので、私どもも切り口を考えて研究していきたいと考えています。

男女の違いを考えていたら、冒頭に述べた鮮烈なサツキと控えめなツツジ、どちらが男性的で、どちらが女性的なのかなあ、と思いましたが、これは結構デリケートな問題ですね。

これから梅雨の季節を迎えます。体調を崩しやすくなりますし、食べ物にも注意が必要な時期になります。くれぐれもご自愛をお願いいたします。

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿