センター便り 2014年5月

「薫風の候」鮮やかな新緑が目を癒し、爽やかな涼風が肌に心地よい快適な季節になりました。東京女子医大最寄り駅である若松河田駅前には、色鮮やかなサツキが咲き誇っています。ひと月前に満開を迎えた桜はやわらかな薄紅色で皆を癒してくれましたが、サツキは目の覚めるようなピンク色で通り過ぎる人すべてに強烈な印象を与えます。桜のようなやさしさと、サツキのような強さ。自然はいろんな力のあり方を教えてくれます。

先日来、STAP細胞を巡る騒動がマスコミをにぎわしました。科学の基本から言えば、悪意があろうとなかろうと誤りは誤りであり、この意味から言うと改ざんも単純ミスも大きな違いがなく、とにかく正確を期すのが研究者の使命です。しかし社会的な見地からは、誤りに悪意があるかどうかが問題になるようで、科学者の視点とマスコミに代表される社会の視点には大きなずれがあるように思います。それが私たちにはとてもよくわかるのですが、実感できない人々も多いことを今回知り、いろいろと考えさせられました。

再生医療という科学の最先端で起こっていることは、科学者の端くれである私にも理解できないことが多く、まして一般の人々にすべてを理解してもらうことは難しいと思います。まだ実用化には程遠い夢物語の段階であるがゆえに不確実な点も多いのですが、ひとたびニュースになると、すぐにでも実現するような期待感が生まれる。その期待が逆に作用して、その研究の道を閉ざすこともあるのです。それが報道の本質なのかもしれませんが、我々の弱さでもあるかもしれません。

医学は科学の中でも人間くさい学問です。科学技術を人に応用することが職業である私たち医師は、科学の最先端を詳細に語ることも必要ですが、その技術が現実になればどんな未来が待っているのかを語ることも必要だと思います。医療に携わる医師はもっと雄弁に語るべきであり、私もまたこのコラムなどで語っていきたいと思います。ちょっとお堅い話になってしまいました。申し訳ありません。

4月末から5月上旬はゴールデンウイークであり、長期休暇を楽しまれている方々も多いようです。私どもの診療もカレンダー通りですから、祝日、休日には休みます。その前後の外来の混雑を考えると休みたくないなあと思ってしまいますが、国民の祝日ですから休まざるを得ません。祝日の余波のため、外来待ち時間などでご迷惑をおかけするかもしれませんが、なにとぞご理解の上、ご寛容をお願いいたします。

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター所長 山中 寿