センター便り 2014年4月

今年も桜の季節がやってきました。膠原病リウマチ痛風センターの前にはちょっとした桜並木があり、毎年、我々の目を楽しませてくれます。今年はいちばん北側の桜の木が最初に開花しました。この木はとても枝ぶりが良く、駐車場の上までのびのびと張り出して、しかもたくさんの花を咲かせてくれています。平安の西行法師の時代から、日本人は桜に特別の思いを込めてきました。桜が咲く頃は、折しも年度や学年が変わる時期。別れや出会いにまつわる情感が、薄紅色の桜に投影されるのでしょう。

桜が咲くこの時期はスギ花粉症の最盛期でもあります。花見には行きたいが花粉症がつらいという方も多いと思います。かく言う私も以前はアレルギーには無縁であったのが、2年前から急に花粉症が出て、この時期はつらい毎日を送っています。今月は花粉症とリウマチに関するちょっと意外な話を紹介します。

スギ花粉症はスギの花粉に対するアレルギー反応です。アレルギーも免疫の一種なので、免疫疾患である関節リウマチの兄弟分ではないか、だから関節リウマチの患者さんは花粉症も重症化するのではないか、と考えるのが普通でしょう。でも実際はそうではありません。むしろ逆で、リウマチが悪い時は花粉症が軽くなり、リウマチが軽快して寛解になったりすると花粉症がひどくなるのです。実際に私の外来でも、患者さんが「そういえば、関節リウマチが悪かった頃には花粉症は忘れていたけど、リウマチを治療して良くなったら、今度は花粉症で悩むようになった」という声を聞きます。

関節リウマチと花粉症がそんなシーソーのような関係にあることは、膠原病リウマチ痛風センターに通院中の患者さんにご協力いただいているIORRA調査ではじめてわかりました。2006年に実施したIORRA調査で花粉症についてお聞きしました。リウマチ患者さんにおける花粉症の頻度は日本の一般人口とほぼ同じでしたが、リウマチ患者さんでスギ花粉症を合併した場合は、リウマチの疾患活動性指標(強さの程度)が低い、つまり花粉症のある人のほうがリウマチが軽症である傾向が認められたのです。服用中のステロイドの作用を考慮しても、この結果は統計学的に有意差がありました(Clin Exp Rheumatol. 2007;25(3):505-6.)。

ちょっと意外な結果でしたが、理論的には十分納得できます。免疫をつかさどるT細胞というリンパ球があり、その中にTh1細胞とTh2細胞という兄弟分のような細胞があります。関節リウマチはTh1細胞が関係する病気で、花粉症はTh2細胞が関係する病気です。つまりTh1細胞が増えるとリウマチが悪くなりますが、そのぶんTh2細胞が減るので花粉症は良くなります。逆にTh1細胞が減ってリウマチが良くなると、Th2細胞が増えて花粉症が悪くなるのです。

リウマチが良くなっても花粉症でつらい思いをしたくないことは当然ですが、関節リウマチは放置すると関節が変形し、場合によっては寝たきりになる病気ですから治療が必須です。一方の花粉症は季節が過ぎれば軽快しますし、またマスクなどでスギ花粉を避けることでかなり予防できます。関節リウマチの患者さんは、やはりリウマチをしっかり治療することが優先するのは間違いないことだと思います。

「この世の中は良いことばかりではない」ことの一例でしょうか。桜の季節は、南岸低気圧による「春の嵐」の季節でもあります。「花に嵐」、「好事魔多し」。頭上の桜に目を奪われて、何かにつまずいて転倒した、なんてことがないようにご注意くださいね。

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿