センター便り 2014年3月

この冬はいつもの冬とはずいぶん違った冬になりました。記録的な大雪が降って犠牲者が出ましたし、多くの方々の生活に支障をきたしました。ところが、この記事を書いている2月28日は汗ばむほどの気温になり、春到来と言われても「そうか良かった」と信じられるほどです。

大雪が降った日は都内も混乱しましたが、幸いなことに2度とも週末であったこと、2度とも積雪の次の日の気温が上昇したために、雪も比較的早く融けてくれました。寒暖の差があるのは悪い話ばかりではないようです。誰しも辛いことはつい口に出ますが、ちょっと良いことはなかなか言葉にできません。新聞やテレビも悪いことは伝えますが、良いことはあまり伝えないですよね。しかしこの世は何事も両義的。悪いこともあれば良いこともあります。悪い面ばかり見ずに、何か良いことはないかと考えることも大切だと思って、私は毎日を前向きに過ごしています。

先月に引き続き、関節リウマチの患者さんに使われる生物学的製剤の話をすることにしましょう。

生物学的製剤が7種類あり、どれがどう違うのかとよく聞かれます。確かに同じ点と違う点があります。まず同じ点から書きましょう。7種類とも遺伝子組み換えで作成されたバイオ医薬品です。すべて注射薬です。どれも十分な臨床試験が行われていて、十分な科学的根拠があります。有効性と安全性はどれもだいたい同じです。70%ぐらいの方で関節炎が緩和され、関節の破壊が防止できます。ただしどの薬剤も感染症などの副作用に注意が必要です。すべて高価な薬剤で、健康保険を使っても毎月数万円の自己負担が生じます。

違う点もあります。関節リウマチを悪化させる物質のうち、TNFという物質に作用する薬剤が5種類、IL-6という物質に作用する薬剤が1種類、リンパ球の一種であるT細胞の活性化を抑える薬剤が1種類あります。点滴静注しかないものが1種類、皮下注射しかないものが4種類、どちらもできるものが2種類です。注射の頻度は週に2回、週に1回、2週間に1回、4週間に1回、8週間に1回と様々です。日本で開発されたものが1つ、あとの6つは海外で開発された薬剤です。

各々の特徴をざっと書いてみます。

レミケード:最初の生物学的製剤、8週間に1回の点滴静注。投与量が調節できるのがメリット。

エンブレル:週2回の皮下注射が基本。有効だと週1回に減らせることも。自己注射ができる。比較的安全。

アクテムラ:IL-6を抑えるのでCRPがほぼ0になる。点滴と皮下注射の両方が選択できる。

ヒュミラ:世界中で一番よく使われている生物学的製剤。2週に1回の皮下注射で、自己注射ができる。

オレンシア:T細胞の活性化を抑えるので、他の薬剤とは違う効果も持つ。安全性は比較的高い。

シンポニー:月1回の皮下注射で、用量が選べる。アレルギー反応は少ない。

シムジア:2週に1回皮下注射するのが基本。効果が早く現れる。

最初に書きましたように、物事には良い面と悪い面がありますが、ここでは良いことばかり書いてみました。薬剤はどれも副作用が生じる可能性があるわけで、確かに良いことばかり書くのはどうかとも思います。しかし、希望は良いことを知ることから始まります。そのように考えて、そっと書いてみました。

「良いニュースというのは、多くの場合小さな声で語られるのです」(村上春樹 ねじまき鳥クロニクル)。

春まであと一息。くれぐれもご自愛ください。

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター所長 山中 寿