センター便り 2014年1月

2014年1月1日

明けましておめでとうございます。今年が皆様にとって昨年よりも良い1年でありますことをお祈りいたします。

お正月は日本人にとってはとても特別な一日です。私が米国に留学していた時にはじめてわかったことですが、米国の1月1日は暦のうえの単なる一日でした。日本の1月1日は365分の1の1日ではありません。家族そろって初日の出や神仏に手を合わせ、今年一年の無事を祈ります。大きな自然に包まれて生かされていることを実感し、敬虔な気持ちになる一日です。おせち料理、お屠蘇、お雑煮など、正月料理に「お」が付くのは、やおよろずの神に対する「感謝」の気持ちなのでしょう。皆さまは2014年の新年をどのような気持ちで迎えられましたでしょうか?

今年はインフルエンザ流行の出足が遅いようです。まだまだ油断はできませんが、大流行にならないことを祈るばかりです。鳥インフルエンザの報道もあったりして感染症は医学の大きな問題です。実際、人間をはじめすべての生物は様々な微生物と戦って生きています。この戦いの中で備わったシステムが免疫、その字のごとく、疫を免れるシステムです。免疫システムでは好中球やリンパ球などの白血球、免疫グロブリン、補体など多くの細胞や分子が関与し、外部から侵入する微生物や異物を排除します。この際に自分の体の一部なのか、外敵なのかを認識する必要が生じますが、自分の体は攻撃しない巧緻な「寛容」のシステムが出来上がっています。

関節リウマチや膠原病は、この免疫の仕組みに異常が生じて発症します。特に自分の体の一部を外敵とみなして攻撃するような現象、自己免疫現象が起こります。関節リウマチでは関節が、全身性エリテマトーデスでは腎臓や皮膚が、強皮症では皮膚や肺が、多発性筋炎では筋肉が標的となり、自己の免疫の攻撃にさらされてしまいます。「相手が違うよ」と言ってやりたくなりますが、いったん攻撃が始まるとなかなか止めてくれません。攻撃の矛先を変えられればいちばん良いのですが、現在の技術ではそれができないのです。

したがって、関節リウマチや膠原病では、免疫自体の力を弱める免疫抑制が治療になります。関節リウマチに使われるメトトレキサートや生物学的製剤、膠原病に使われる副腎皮質ステロイド薬も広い意味では免疫抑制薬です。これらの薬剤を使うと自分の体を攻撃している免疫の作用を弱めることができ、病気は沈静化します。最近では、特定の蛋白質の作用だけを抑える生物学的製剤が使えるようになり、免疫全体の力を下げるのではなく、悪い部分だけを抑えるような治療が可能になってきました。

しかし、皆さんの想像の通り、免疫の力は弱まると外敵に対しての防御力も弱まります。したがって、関節リウマチや膠原病で治療を受けている患者さんは感染症に十分な注意が必要になります。人ごみを避ける、マスク着用、うがい、手洗いなどの衛生上の注意が基本です。もちろんインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンなどの接種を強くお勧めします。さらに、規則正しい生活、バランスのとれた栄養、十分な睡眠など、「健康」的な生活を送ることを心掛けてください。

私は以前から新年にあたり自分自身の目標を3つ掲げてきました。ところが前年の反省と自戒も込めて考えると、このところ毎年同じ言葉が目標になってしまっています。「健康」「感謝」「寛容」、いずれもKで始まりますので3Kですが、簡単なようで意識していないとなかなか実践できない3つでもあります。皆様の今年の目標は何でしょうか?

2014年1月1日 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター所長 山中 寿