センター便り 2013年9月

9月の声を聴くと、急に秋らしさを感じます。しかし今年は暑い夏でした。私などは一日中建物の中で仕事をする職業ですが、外回りの人々は本当につらい夏だったと思います。また、雨の降り方が極端でした。降らないとかんかん照りで、いったん降るとバケツをひっくり返したような大雨でした。ニュースで豪雨が災害をもたらした地方の悲しみと、少雨で水不足に見舞われた地方の苦しみを聞くにつけ、もっと万遍なく適度に降ってくれないものかと恨めしく思います。やっぱり自然には勝てません。

今回は病気が「治る」ことについて考えたいと思います。

病気が「治る」とは、厳密に言えば、治療を中止しても病気を発症する前と同じく健康で、何の傷跡も残らない状態になることでしょう。こうなれば「完治」ですね。しかし、いろんな病気を見ていますと、なかなか完治は難しい。我々が専門とする膠原病、関節リウマチ、痛風などは「完治しました、良かったね」と言うことがなかなかできません。そればかりか、高血圧でも糖尿病でも腎臓病でも「完治」はなかなか難しい。

いろいろ考えているうちに、ひとつの考えが浮かびました。「病気の原因が体の外から来るものは、治ることができるが、病気が体の中の異常から生じるものは、なかなか治らない」という原則です。インフルエンザ、肺炎、結核などの感染症と骨折などの外傷は原因が体の外から来ます。この場合は、原因を除去する治療をすれば、体の回復力が病気を治してくれます。したがって治った後は治療を止めても健康体に戻っています。これらは「治る」病気です。しかし、多くの慢性疾患は体の中の異常に根ざしており、原因が除去できません。したがって、治療を止めると病気が悪化することが多い。高血圧や糖尿病、腎臓病、動脈硬化による血管障害などは、コントロールすることはできても「治す」ことは難しい。したがって、大半の患者さんが治療を継続せねばならないのです。痛風や関節リウマチ、膠原病もこの分類に含まれます。

関節リウマチに関しては、治療学の進歩で、かなり病気をコントロールできるようになりました。そして、薬を使いながらでもほぼ無症状になり、関節破壊の進行も止まり、不自由のない日常生活が送れるという「寛解」状態まで回復する患者さんが多くなりました。しかしながら、現在の治療法は病気を悪くしている物質を減らすもので、病気自体を治すものではありません。したがって寛解になっても「完治した」と言える状態ではなく、治療の継続が必要です。治療をすべて止めるとかなりの確率でまた再発します。難病である膠原病でも、適切な治療により症状もすべて消えて、普通の生活ができる人が増えました。しかし、やはり病気を根本から治す治療法ではなく、治療を中断するとやはり病気が悪くなります。痛風の場合は、生活習慣病の要素が強いので、生活習慣の見直しがきちんとできた場合は、薬剤を中止できることがあります。しかし、ほとんどの患者さんでは血清尿酸値をコントロールし、痛風発作の再発を防ぐために内服を継続する必要があります。このように「体の中から生じた病気」は、現状ではなかなか治りません。

しかし、病気が「治る」ということを「治療を継続しながらでも病気になる前と同じように健康な人生を送れること」と考えれば、膠原病も関節リウマチも痛風も、かなりの割合の患者さんが「治った」と言える状態になっています。そこまで医学は進歩しています。現在、治療を受けられている患者さんは、ご自身の病気を理解し、治療の必要性を理解し、治療を続けながらも健康的な生活を送っていただきたいと思います。医療機関にいる我々は、そのためのお手伝いをし、できることなら患者の皆様には、病気にならなかった人よりももっと実りある人生を歩んでいただきたいと思っています。

我々は猛暑や豪雨のような自然現象には勝てませんが、しのぐことはできます。そして秋風が立てば、暑さも次第におさまります。病気も同じ。我慢してしのぐことが大切な時があります。

まだまだ残暑が続きます。くれぐれもご自愛のほど。

2013年9月1日 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿