センター便り 2013年6月

今年は例年より早く梅雨に入りました。雨、いやだなあ。という気持ちになります。確かに雨降りは暗い陰鬱なイメージがありますが、雨といってもいろんな雨がありますね。

日本語は実に感性溢れる言語であり、雨に関してもとても多くの表現があります。霧雨、小雨、時雨、俄雨、村雨、涙雨、天気雨、大雨、豪雨、雷雨、長雨、春雨、五月雨、梅雨、秋雨、氷雨、慈雨・・・

雨が空から落ちてくる水滴であることには変わりはないのですが、雨が降る時により、季節により、場所により、そして雨にぬれる我々の心の持ちようで雨は変わります。

「慈雨」っていい言葉ですよね。柔らかく降り注ぎ、万物をあまねく潤し、慈しみ育てる雨。いつまでたっても、未来永劫に、人間は自然にかないません。

今年の4月から膠原病リウマチ痛風センターに小児のリウマチ性疾患のスペシャリストである宮前多佳子講師が着任されました。今まで当センターでは小児のリウマチ性疾患を非常勤の医師が診療してきましたが、宮前先生は常勤医としてリウマチ性疾患を持つ小児の患者さんの対応をしていただくことになります。

子供でもリウマチってあるの?と疑問に思われた方もおられるでしょう。

小児に発症する関節リウマチを若年性特発性関節炎(Juvenile Idiopathic Arthritis: JIA)と呼びます。患者数は必ずしも多くないので注目される機会が少ないのですが、成人のリウマチと同様につらい病気です。それどころか、小児のリウマチ患者さんは発育、発達の障害などもありますし、教育も含め、社会適応が大変です。何よりも成人より長い時間を病気とともに過ごさねばならないという大きな問題があります。

実は、小児リウマチなどの小児の慢性疾患の治療が進歩した結果として、小児科を卒業する年齢になっても小児科の医師が延々と診察している場合があります。「キャリーオーバー」と呼ばれることがありますが、多くの場合、診療科が異なると受診が難しくなることや、患者と家族と医師の絆がとても強いことも原因になって、小児科の医師が診療していただいていることが多いようです。本来は成人のリウマチ専門医に円滑に移行したほうがよいはずですが、移行はなかなかうまくいかないようです。

東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターは、内科と整形外科の医師が集まって一つの診療施設になっていますが、さらに小児リウマチを扱うスタッフが加わり、リウマチ性疾患に対して、より包括的、総合的な診療が展開できるようになりました。さらに、当センターに子供の頃から受診されていた小児リウマチの患者さんは、成人してからの診療も同じ施設で、同じカルテで診察が受けられることになりますので、受け皿はしっかり準備できています。

小児リウマチの診療はまだ準備段階ですが、できるだけ早く体制を整えるように努力しております。お知り合いなどでお困りの方がおられましたら、受診をお勧めいただけると幸甚です。

梅雨明けまでの約1か月半は、一年で最も湿度の高い季節です。細菌やウイルスがはびこらないように、身の回りは常に清潔を心掛けていただきますようお願い申し上げます。

最後になりますが、今いちど「慈雨」という言葉について。この単語の持つ柔らかさを感じながら、少しでも優しい心を持って人々に接したいものだと思っております。

2013年6月1日 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長 山中 寿