センター便り 2018年9月

2018.9sentadayori晩夏という言葉があります。その言葉には、過ぎ去る夏に対する哀愁が込められています。

ゆく夏に  名護る暑さは

夕焼けを吸って燃え立つ葉鶏頭

秋風の心細さはコスモス  (晩夏  荒井由実)

でも、今年に限っては、そんなものどうでもよい。一刻も早く夏が終わってくれ~と心より思います。今年の夏は暑かった。暑さで体調を崩された患者さんがたくさんおられました。今年の夏ほど、皆に疎まれ、嫌われた年は珍しいのではないでしょうか。幸い、9月になると平年並みの気温になるとの予報が出ていました。本当に秋風が待ち遠しいです。

人間には五つの情報の入り口(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)があります。どれも大切なのですが、ヒトが得る情報の約80%は視覚だと言われます。目から入る情報には、テレビなどの画像情報と新聞や雑誌のような文字情報があります。例えば、私たちが新聞を読むと、文字情報が目に入り、脳内でそれが具体的な像に置き換わって、理解につながります。それに比べて、映像は具体的な画像として目に入り、脳内でも同じ画像として認識されます。つまり、画像情報のほうが、ずっとシンプルに、速く、強烈に脳に届きます。

現代は画像の時代です。「インスタ映え」という言葉に代表されるように、ひときわ目立つ画像に皆が注目します。テレビでも、画像としてのインパクトが強い場面は、繰り返し繰り返し放映されます。ヒトの目を引くということは、テレビでは視聴率も上がるし、SNSでは、いいね!を増やすことにつながりますので、画像の送り手としては、当然の企業努力だろうと思います。しかし、情報を受ける私たちとして、それを安易に鵜呑みにしていいのか、とても気になります。映像にインパクトがあることと、その問題が大切であることとは、話が違うと思うのです。

昨日もテレビを見ていますと、各局が一斉に日本体操協会の問題を取り上げていました。ちょっと前はボクシング協会でしたし、その前はラグビーの不正タックル問題一色でした。いずれもインパクトのある画像があることが共通項であり、それを繰り返し放映することで、番組の注目度がアップしたのだと思います。

しかし、映像のインパクトが強いからといって、その問題が本当に重大なのかどうか。ある団体の内部で意見の食い違いがあったとしても、私たちの生活には直接の影響がない。インパクトのある映像にはならないけれども、もっと重大なことが、世の中にいっぱいあるはずです。そういうものはニュースで取り上げても、皆が関心を持たないから、放映されない。インパクトの強い映像に世間の耳目が集まっているうちに、映像にはなりにくい重大なことが、どこかで進行しているかもしれない。そんな不安に駆られます。

大事なことほど小声でささやく(森沢 明夫)

インスタ映えするお料理でも、食べてみたら美味しくなかった、なんてことはおかしな話です。私も、視覚情報に惑わされずに、自分の心の中に生じた画像を大切にしたい、と思う次第です。

今しばらく残暑は続きます。どうぞご自愛いただきますように。

2018年9月1日

東京女子医科大学病院  膠原病リウマチ痛風センター  教授  山中  寿