センター便り 2018年8月

sentatayori8うだるような猛暑です。幸いなことに、私の仕事は建物の中で行うものですから、昼間の猛暑も、冷房のお陰でしのぐことができますが、屋外でお仕事をされている方々は本当に辛いだろうと思います。汗をかきながら大きなカバンを持って歩かれている営業の方や、道路工事などで作業着を汗びっしょりで頑張っておられる方々を見ると、本当にご苦労様、と頭が下がります。

この夏は異常続きです。6月に梅雨が明けたと思えば、西日本にひどい豪雨があり、それからの猛暑。おまけに日本列島を東から西に進む台風など、気まぐれな気候に本当に翻弄された日々でした。特に、西日本の豪雨災害には胸が痛みます。被災地の映像を見た人すべてが、自分の立場だったらどんなに大変だろう、どんなに悲しいだろうと思います。勿論私も思います。

自然の猛威を目にするとき、我々が忘れてはならないのは自然に対する畏敬だろうと思います。科学がどんなに発達し、豪雨がどれだけ正確に予測できるようになっても、豪雨を避けることはできない。台風の進路を予測できても、台風を避けることはできない。地震もしかり、火山もしかり。地球は生きている。そして不確実に活動し、我々に災害をもたらす。これは太古の昔から、現代まで変わらない事実です。

伊勢神宮の内宮には風日祈宮(かざひのみのみや)、外宮には風宮(かぜのみや)という風雨をつかさどる神を祀る別宮があります。太古の昔から、人知を超えたものである風や雨を畏れ、どうか災害が起こらないように、また恵みを与えてくださいと祈ってきた長い歴史があります。豪雨や台風が人知を超えたものであることは、科学が発達した現代でも変わりません。我々は、もっと自然に対する畏怖を持ち、祈る気持ちを持たねばならないのではないかと思います。それが、河川の管理を厳重にしたり、危険地域への建築を防ぐことや、早期に避難したりというように、自然と対峙する方法につながり、災害を減らすことになるのではないかと思います。

病気も同じです。感染症のように予防できる病気はあります。しかし、多くの病気は予防できません。癌も、リウマチも、アルツハイマーも、本当の意味での予防はできない。だから、不幸にして病気を発症してしまったら、適切な治療を受けて、少しでも病魔から逃れられるようにすることが大切なのですが、病気がない人も、健康でいられることに感謝すること、そのような病気にならないように祈ること、また病気が平癒した場合に感謝すること、そのような心の持ちようが大切なのではないかと思います。私は、科学が発達して、自然を凌駕できると思いこむことが、本当に危険なのだと思います。この不確実な地球の上で「生かされている」私たちの、心の持ちようを今一度考えるべきではないかと感じた次第です。

被災地の方々が一刻も早く元の生活に戻れることを、心よりお祈り申し上げます。

まだまだ暑い夏が続きます。くれぐれも熱中症にならぬよう、ご自愛ください。

2018年8月1日

東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター 教授 山中 寿